ふたりのねがいごと
まえがき
これは同人誌版「神様はいる喫茶店」のリメイク前の作品です。ごちゃごちゃにならないように「ふたりの願い事」へ改題しました。第一話と第三話も改題してます。(同じサブタイトルがあるため)設定は結構違っています。ひびき17歳ですよ、わお。若い。名字…
第一柱「神様はアルバイト」
「ブレンドです」ここは翠埜市街地の左右知商店街にある「喫茶がじぇっと」。商店街の人通りは多くもなく少なくもなかった。この喫茶店も例外ではなく、まばらではあるが客で席は埋まっていた。髭面のせいで割と年を食っているように見えるここのマスターは、…
第二柱「出会い」
四月も中旬になって、暖かさが増してきた頃のこと。ここは喫茶「がじぇっと」の店の中には、客ははおろか、マスターまでいなかった。それにも関わらず、セーラー服の少女――篠座ひびきは一人コーヒーを飲んでいた。茶髪のポニーテールが印象的である。カラカ…
第三柱「ワンアンドオンリー」
ひびきが古森と会ってから、一週間が経った。古森のことを第六感的な何かで気になっていたひびきは、学校帰りに毎日古森神社の前を訪れていた。しかし、別段声を掛けるでもなく、境内を軽く覗いて、そのまま帰宅していた。ひびきは一人では広すぎる自宅に帰っ…
第四柱「エスプレッソ」
五月の明るい日差しが眩しい純喫茶「がじぇっと」の日曜日、「どうしたのよ。そのギター」ひびきは古森がアコースティックギターを抱えているのを見て驚いた。「あ、これね。マスターが格好いいから、飾ろうともらってきたんだって。でも、どうせあるなら弾き…
第五柱「ゆうれいさん」
白いセーラー服姿の篠座ひびきは「喫茶がじぇっと」の扉を開けた。「ひびき、どうしたの。そんなグロッキーな顔をして」ひびきの叔父でマスターはカウンターの奥で、カップを磨きながら首をかしげた。「う……。ちょっと、つきまとわれててね……」「えっ。も…
第六柱「思春期オバサン」
ここは純喫茶「がじぇっと」。喫茶店特有の落ち着いた雰囲気のおかげで、繁盛までは行かなくても、それなりにお客が入っていた。カウンター席では、ややグラマーでそれなりの顔をしてはいるものの、とうに結婚適齢期を過ぎた女性がいた。彼女は夢心地な様子で…
第七柱「ひとさがし」
「マスター。今日はお客さん、一人もいないんですね……」古森は、喫茶「がじぇっと」におつかいから帰ってくるなり、こう言った。「ああ……そうだね。土曜日のお昼なのにね、はあ……」古森の言うとおり、お客は一人もおらず、マスターはため息をついた。カ…
第八柱「女王蜂とカースト制度」
衣替えも無事に済み、気がつけば梅雨に入った頃のこと。「がじぇっと」がある翠埜市の隣町の学校、私立組川大学付属高校で、昼休みに二年三組の中心的メンバーが、派手な髪とメイクをしている少女を「ええ。アイカさんはすばらしい!」「あまりの迫真の演技に…
第九柱「自分を見つめて」
ここは喫茶「がじぇっと」。大勢のお客で大賑わい……というわけではないが、入れ替わり立ち替わりで、お客さんが入ってきている。その中で、カウンターでずっと座り込んでいる中年の女性がいた。それは容姿は老けていたためか恵まれてない……例え若かったと…
第十柱「素の自分」
ここは県立敬貴高校の校門前。「って訳でさーオレは素の自分を出し切っていないワケよ! 分かる? ねえ! ひびきちゃあん」敬貴高校の学ランを着た刈り上げ頭の少年が、同じ敬貴高校のセーラー服を着ている茶色のポニーテール少女の篠座ひびきに、まるで酔…
第十一柱「自分のオールを他人にまかせる女」
水曜日の夕方5時過ぎ、茶髪のポニーテールの少女――篠座ひびきが喫茶「がじぇっと」に入ってくるなり、「あら、珍しや。コモリが本を読んでる」と驚きの声をあげた。「失礼な。ボクだって本ぐらい読むさ」黒い癖毛に金の瞳を持つ少年、古森はそう言うと、文…
第十二柱「見失い女」
正午に入ってすぐにこと。「喫茶 がじぇっと」の一角で、一〇代後半の若い女性が四人、一枚の紙を見て黄色い声をあげていた。ここで働いている癖毛に金の瞳を持った少年、古森は女性達の姿を見て、もうちょっと静かにしてくれないかなあ……と冷ややかな目で…
第十三柱「芸能人は命が大事」
ここは喫茶「がじぇっと」。癖毛に金の瞳を持った少年、古森はカウンターに肘をついて、放心していた。「なあ、コモリ君。起きてるか?」マスターの息子で刑事の友兼ゆたかが店の奥から出てきた。びしっとスーツに身を固めている。「ええ……起きてますよ………
第十四柱「天使の鏡」
古森は、ひびきと店の奥に置くカラーボックスを買いに、郊外のショッピングモールまで出かけていた。予算も大きさもちょうどいい物があったので、それを購入し、そのほかの細々としたものを買ったあと、「ねえ、コモリ。あんた、おなかすいてない?」ひびきは…
第十五柱「存在する価値」
喫茶「がじぇっと」のひげ面のマスターはイライラしていた。時刻は夜十時を回っていたので、マスターはお店を閉めたかった。しかし、いっこうに帰らないお客が一組いた。怒っても良かったのだが、マスターは温厚で、尚且つ分別の付いている男性だったので、ま…
第十六柱「キープサイレンス」
「ちょっと待って。それ、どういう意味……? 忘れている……? 願いって……」ひびきは青ざめた表情で古森の金の瞳を見つめる。古森はひびきから腕を放し、「いや……なんでもない」と俯く。「ちょっと! なにか話さないと分かるモノも分からないわ!」ひ…
エピローグ「神様がいた喫茶店」
ひびきは家のチャイムの音で目を覚ました。自身のベッドから起き上がる。再びチャイムが鳴る。ひびきは起き上がると、慌てて玄関まで走って行き、ドアを開けた。「ひびきちゃん、いくよ」扉の向こうにマスターとゆたかと聖子が手を振っていた。「いくって、ど…
五年後のあとがき
タイムスタンプを見ると、書き終わったのが2016年2月でした。私が25歳の時の作品になります。当時は、今以上に技術がないため、拙い作品です。ですが、今と変わらぬ情熱で書き上げています。「年齢によって感性が違う」「その時々にしか書けないセンス…
短編
「おかえりなさい」
わたくしには帰る場所がありません。わたくしには不思議な力――人の願いを叶える力がございます。大抵の人々はわたくしの力で破滅していきました。わたくしは一切罪悪感は感じていませんでした。しかし、だんだん心が苦しくなり、人との関わりを拒絶するよう…
パイロット版「恩知らずの闇子さん」その1
「恩知らずの闇子さん」は、本編を書き始める前に、パイロット版を2編書いてます。様々なアドバイスを頂いた上で、本編を書き始めました。その一つをアップします。改めて読み返すと、二人とも性格が違くてびっくりします。本編と名字など設定が色々違います…
願ったり奏でたり
誰もいない夜の公園のベンチで、私はさめざめと泣いていた。「どうして! どうして! あんな女にあなたはなびくの?」 私は何かの糸が切れたように、声を大きく上げて泣きはじめてしまった。近所迷惑かもしれないけど、今はそれどころではない。あふれ出…
そういう世界に生きているのだけど
村田鮎子はネオンサインが怪しく光るビルの屋上から飛び降りた。 彼女はそう思っていた。しかし、気がつけば、鮎子はビルの屋上で大の字に倒れていた。心臓の音が激しく鳴っている。一体何が起きたのか。鮎子は理解できない。「ちょっと……。まさかここで…
異端者~彼女の行方
後ろから鈍器のようなもので殴られた。目の前に星が飛ぶ。いくら残業でいつもより退社が遅かったとはいえ、油断していたのが悪かった。月明かりが明るかったのも尚更油断を促していた気がする。次にわたしは自分のバッグが引っ張られる感覚を覚えた。とっさに…
春風にのってきたサザンクロス
爽やかな日差しの中、あたしは風を切りながら深い森を越えようと、愛用のホバーボードで宙を駆けていた。 若干、暑く汗ばんできたので、川の上を滑るように飛ぶことにした。水しぶきが冷たい風と共に足にあたり、とても涼しい。 気分がとても良いので、思…
「夢のレストラン」
私は古ぼけて暗い印象の「夢のレストラン」という看板がかかっているシケたレストランのドアを開けた。「いらっしゃいませ」 店内は薄暗い照明の真ん中に椅子が三つだけ並んでいるカウンター席しかなかった。奥にはコック帽にコックコートを着たこざっぱり…
「銀のトビラを開くアヴァロン・セレスタイト」
「ありがとう」 こう繰り返し頭を下げる老女に、「いえ、神々にお祈りをする手伝いをするのがわたしたち神官の仕事。こちらもお役に立ててうれしかったですよ」 小礼拝堂の前で神官長の孫娘で次期神官長のゼフィは老女の手を握る。 神殿で働くぼくら神官の…
パイロット版「恩知らずの闇子さん」その2
「北条さん、ごきげんよう。如何お過ごし?」 後ろから、髪の毛を美しく整え、メイクをバッチリ決めたクラスメイト、城鳥蓮華が高笑いしながら、背中を叩き、通り過ぎた。「城鳥さん……。どうも」 月曜の朝という一番嫌いで憂鬱な時間帯に、こんな高笑いを…
パイロット版「希望探偵エス」
オレは冬休み間近の寒空の下、走りながら大声で泣いていた。道行く人々は呆れてオレを見ているだろう。しかし、オレはそんな人たちよりも自分の苦しい心を解放させたくて仕方がなかった。冷たい空気で張り付く喉に咳き込みながら、オレは誰も会いたくない一心…
「冷血の鏡子さん」
「あれ。どこいったっけ」 私は夫からもらったピアスを探す。さりげなく揺れるエメラルドがついた小さな小さなピアスだ。大好きな夫からもらったピアス。とっておきのとき――例えば、夫とのデートの時とか――に付けようと思っていたピアス。 今日がそのデ…
満月ラプソディ
1 秋口なので、流石に夕方は寒気を強く感じる。 おれは飲み干した缶コーヒーを誰もいないゴミ箱に捨てた。金属の鈍い音が響く。 カラスがうるさい。落ち込みたいのに、このカラスの鳴き声のせいで落ち込もうにも落ち込めない。「ああ。おれはここまで頑張…