ふたりの願い事

五年後のあとがき

タイムスタンプを見ると、書き終わったのが2016年2月でした。私が25歳の時の作品になります。当時は、今以上に技術がないため、拙い作品です。ですが、今と変わらぬ情熱で書き上げています。「年齢によって感性が違う」「その時々にしか書けないセンス…

エピローグ「神様がいた喫茶店」

ひびきは家のチャイムの音で目を覚ました。自身のベッドから起き上がる。再びチャイムが鳴る。ひびきは起き上がると、慌てて玄関まで走って行き、ドアを開けた。「ひびきちゃん、いくよ」扉の向こうにマスターとゆたかと聖子が手を振っていた。「いくって、ど…

第十六柱「キープサイレンス」

「ちょっと待って。それ、どういう意味……? 忘れている……? 願いって……」ひびきは青ざめた表情で古森の金の瞳を見つめる。古森はひびきから腕を放し、「いや……なんでもない」と俯く。「ちょっと! なにか話さないと分かるモノも分からないわ!」ひ…

第十五柱「存在する価値」

喫茶「がじぇっと」のひげ面のマスターはイライラしていた。時刻は夜十時を回っていたので、マスターはお店を閉めたかった。しかし、いっこうに帰らないお客が一組いた。怒っても良かったのだが、マスターは温厚で、尚且つ分別の付いている男性だったので、ま…

第十四柱「天使の鏡」

古森は、ひびきと店の奥に置くカラーボックスを買いに、郊外のショッピングモールまで出かけていた。予算も大きさもちょうどいい物があったので、それを購入し、そのほかの細々としたものを買ったあと、「ねえ、コモリ。あんた、おなかすいてない?」ひびきは…

第十三柱「芸能人は命が大事」

ここは喫茶「がじぇっと」。癖毛に金の瞳を持った少年、古森はカウンターに肘をついて、放心していた。「なあ、コモリ君。起きてるか?」マスターの息子で刑事の友兼ゆたかが店の奥から出てきた。びしっとスーツに身を固めている。「ええ……起きてますよ………

第十二柱「見失い女」

正午に入ってすぐにこと。「喫茶 がじぇっと」の一角で、一〇代後半の若い女性が四人、一枚の紙を見て黄色い声をあげていた。ここで働いている癖毛に金の瞳を持った少年、古森は女性達の姿を見て、もうちょっと静かにしてくれないかなあ……と冷ややかな目で…

第十一柱「自分のオールを他人にまかせる女」

水曜日の夕方5時過ぎ、茶髪のポニーテールの少女――篠座ひびきが喫茶「がじぇっと」に入ってくるなり、「あら、珍しや。コモリが本を読んでる」と驚きの声をあげた。「失礼な。ボクだって本ぐらい読むさ」黒い癖毛に金の瞳を持つ少年、古森はそう言うと、文…

第十柱「素の自分」

ここは県立敬貴高校の校門前。「って訳でさーオレは素の自分を出し切っていないワケよ! 分かる? ねえ! ひびきちゃあん」敬貴高校の学ランを着た刈り上げ頭の少年が、同じ敬貴高校のセーラー服を着ている茶色のポニーテール少女の篠座ひびきに、まるで酔…

第九柱「自分を見つめて」

ここは喫茶「がじぇっと」。大勢のお客で大賑わい……というわけではないが、入れ替わり立ち替わりで、お客さんが入ってきている。その中で、カウンターでずっと座り込んでいる中年の女性がいた。それは容姿は老けていたためか恵まれてない……例え若かったと…

第八柱「女王蜂とカースト制度」

衣替えも無事に済み、気がつけば梅雨に入った頃のこと。「がじぇっと」がある翠埜市の隣町の学校、私立組川大学付属高校で、昼休みに二年三組の中心的メンバーが、派手な髪とメイクをしている少女を「ええ。アイカさんはすばらしい!」「あまりの迫真の演技に…

第七柱「ひとさがし」

「マスター。今日はお客さん、一人もいないんですね……」古森は、喫茶「がじぇっと」におつかいから帰ってくるなり、こう言った。「ああ……そうだね。土曜日のお昼なのにね、はあ……」古森の言うとおり、お客は一人もおらず、マスターはため息をついた。カ…