ケース2「我が輩は課長である」

 帰宅した俺は、一日頑張ったご褒美に缶ビールを開けた。炭酸が弾ける音がする。
 キンキンに冷えたビールは五臓六腑に染み渡る。この三百五十ミリリットルのために、毎日頑張っている。
 第三のビールやら発泡酒やらあるが、あんなのは邪道だ。ビールが一番おいしいに決まっている。
 今日も腹が立った。
 使えぬ部下を持つと上司は困る。
 今日だって、アイツ、俺が指示したプレゼン資料を作りきらなかった。残業しますとか言っていたが、そんなことをさせたら、課長である俺の評価が下がる。残業の許可は出さなかった。
 半日もあったのに、作りきれぬとは、何という無能。部下が無能だと、上司は苦しい。
 中間管理職の大変なところだ。
 まあ、今はビールの味とバラエティ番組のお笑い芸人を見て、仕事を忘れよう。

 翌日の朝礼後、プレゼン資料を部下は持ってきた。
 ああ、家でやってきたのか。
 使えぬヤツが考えそうなことだ。
 アイツの作ってきたプレゼン資料を見る。目の前の部下はおどおどした様子だ。
「やり直し」
 俺は正直に突きつけた。
 出来があまりに悪すぎる。
「あの……。どこをやり直せば……」
「その程度のことも分からんのか。全く使えぬヤツはとことん頭が悪いな。それぐらい自分で考えろ。さっさと席へ戻れ」
 部下を手で払う。部下は泣き出しそうな顔でオレを見る。泣くなんて男らしくもない。つくづくみっともないヤツだ。
 俺は冷えたアイスコーヒーを一気に飲むと、俺は他のできる部下に仕事の指示を出した。

 自販機の前に、営業二課のヤツらがいた。いわゆる二軍だ。そういや、アイツはどうして俺が課長の一課にいるんだ? さっさと二課に飛ばせば良いのに。人事は何をやっているんだか。
 営業二課の三人は、ケラケラ笑っている。話題は俺の出来が悪い部下のようだ。
「一課の彼、彼女できたらしいよ」
「マジで?」
「すんげぇ美人らしいぜ」
 女の営業は目をらんらんと輝かせている。
 男の営業ふたりは、ため息をつきながら、
「うらやましいよなあ。大学生らしいぞ」
「犯罪じゃね?」
「いやいや。成人しているっていうし、犯罪じゃないだろ。アイツ、入って二年目なのだし。若いっていいよな」
「そっかあ。だから、最近、デレデレ顔の時があるのね。ああ、会議の時間だわ。さ、仕事に戻りましょ」
 三人は自販機の前から、名残惜しそうに去って行った。
 その様子を見て、俺は怒りを覚えた。なんてけしからん。仕事もできないのに、恋愛などにうつつを抜かすなんぞ。俺なんて妻どころか彼女もいないのに。
 アイツが仕事をしないのは、彼女が出来たからだ。きっとそうに違いない。
 恋愛脳を仕事脳にさせるべく、俺は営業一課全員の前で、そいつを説教した。
「お前はプライベートにうつつを抜かしている。彼女ができたって? そんなことを考えるから、仕事ができんのだ。いい加減にしろ」
 部下の目はうっすらと涙が浮かんでいた。これで懲りただろう。せいぜい反省しろ。
 俺は席に座ると、他の部下たちはそれぞれの仕事に戻っていた。
 あの部下は涙をスーツの裾で拭うと、俺に一礼し、席に戻った。

 その晩、仕事帰りに俺は大学時代の友人と居酒屋で飲んでいた。
 仕事の愚痴を言い合う。お前、それはパワハラになるから気をつけろよ、友人は笑うが、ここでしからないと、俺が支店長に怒られるんだ、とビールジョッキを一気にあおる。
 程よく酔ったところで、二軒目におしゃれなバルに行くことになった。俺はワインが苦手なのだが、まあ、友人が絶対に美味いから、ということで、行くことになった。
 赤ワインは酸っぱいイメージだったのだが、こんなに美味いワインははじめて飲んだ。
 つまみとなるミートボールがなんという美味! ガキの食い物なんてと思った俺を許してくれ。
 テンションが高くなって、恋人の話になる。友人はいたら、お前とこんな風に飲まねえよ、と下品に笑う。そりゃ、そうだな。俺も笑う。
 赤ワインはあっという間に空っぽになった。次のボトルを注文しようか、と話しているときだった。
 鐘の音と共に、あの使えぬ部下が入ってきた。後ろから、つややかな長い黒髪をお団子頭にした美女がいた。その美女のインパクトが強すぎて、酔いが一気に覚めた。
 長いまつげの二重の目はウルトラマリンというべき、深い青色をしていた。雪のように白い肌、真っ赤なくちびる、黒のワンピースからでも分かるグラマラスな肉つきという、この世の美を結集したような美女だった。
 美女と向かい合って座った部下はデレデレした顔をしていた。
 ムカつく……。ろくに仕事もできぬくせに、こんな充実したプライベートを送っているなんて。なんと生意気な。
 俺の表情を見た友人は、不思議そうな顔で、大丈夫か? と尋ねる。
「俺、帰る。気分が悪くなった」
 あんな美女を連れた出来の悪い部下を見たら、いくら気持ちが良い酔いも悪くなる。俺は理由を告げずに、友人に札を二枚を押しつけると、そのまま店を出た。
 楽しい飲み会だったのに、あの部下のせいで、気分が悪くなった。
 俺はコンビニによると、五百ミリリットルの高度数のチューハイとつまみの豆を買い、帰宅した。
 配信された動画を見ながら、さっきの胸くそ悪いあの楽しげな部下の顔を消すように、一気にチューハイを飲み……悪酔いしてトイレで吐いた。

 翌日、朝礼で、全員に営業のノルマを割り振った。出来の悪い部下には、今の成績の倍を振った。
「課長、これは無理です」
 使えぬ部下は主張するが、
「これぐらいできなかったら、男としてどうなんだ?」
 と、ピシャリと言ってやった。
 そうだ。あの美女と釣り合うだけの甲斐性を持つには、これだけの仕事をしなければいけないのだ。
 男として理解させないといけぬ。俺はなんて立派な上司なんだ。
 思わず自画自賛してしまう。
 昼過ぎ、その部下から営業周りが終わらないので、直帰することにします、という連絡が来た。出来が悪いヤツがすることだ。まったく、カイショウナシめ。
 他の部下は会社に早く帰ってきたため、定刻よりは遅くなったが、いつもより早く帰宅することにした。
 夕暮れ時、会社近くの公園のライトアップされた噴水の周りにはカップルがたくさんいた。
 人一倍がんばっている俺にどうして彼女がいないのだろう。風俗でしか発散できぬこのモヤモヤをため息と共に吐き出す。
 ふと目をあげると、蝶の柄のコンパクトミラーを見ている、あの美女が座っていた。髪を降ろしている。長く美しい黒髪だ。半袖のブラウスにワインレッドのロングスカートという姿だ。キレイなボディに再び惚れ惚れする。憂いを帯びたウルトラマリンの二重の目はとても美しい。
 恋人である部下が来ないのに、イライラしているのだろうか。
 よし、アイツの不甲斐なさを伝え、そして、運が良ければ、俺の女にしてやろう。
「やあ、一人で何をやっているんだい?」
 俺は気軽に美女に話しかけた。
「ああ。あの噴水を見ているんだ。キラキラ光っていて、楽しい。オッサンこそ、一体、あたしに話しかけて、何のようなんだ?」
 美女はコンパクトミラーをパタンと閉め、ポケットに入れると、ドヤとした表情をする。
 こんな美女がなんという口の利き方! ある意味、アイツとお似合いといったら、そうかもしれないが、俺の女にするためには、大人として教育させなければいけない。
 俺は美女の隣に座り、
「俺の部下を知っているか?」
 と言って、アイツの名前を挙げた。
「ああ。知っているぜ。それがどうした?」
 美女はしたり顔で俺を見る。なんという上から目線。イラッとするが、こんなじゃじゃ馬こそ、育て甲斐のある小娘だ。
「そいつな、仕事ができないんだよ。俺はアイツの上司なのだが、営業成績も良くなくてね」
 俺はアイツの出来なさを羅列させた。営業先を間違える、営業先の電話番号を間違える、書類の提出を忘れる……エトセトラエトセトラ……。
「あんなヤツの彼女やっているのもツラいだろう? それより、俺の彼女にならないか? アイツより給料もらっているし、仕事もできる」
 俺は美女の目を見た。美しすぎて、まぶしい。
「願い下げだ! そもそも、あたしたちはあの男の恋人じゃない。ただの相談相手だ。友人ですらねぇよ」
 美女は叫び、思い切りにらみつけられた。
 相当怒っているようで、声は裏返っている。
「あたしたちはな、人間たちの『絶望を希望に変える存在』なんだ」
 美女は不機嫌にそう言うと、場違いな邪悪な高笑いをした。
「オッサン、あたしがちょっとばかしキレイな顔をしているからって、気軽に話しかけるんじゃねえ。それに、そんな身勝手な悪口を簡単に話すのが大人なのか? 少しは自分を振り返った方がいいと思うぜ。因果応報って言葉、知っているか?」
 と、罵倒しやがった。
「このじゃじゃ馬娘め! あの男によくお似合いだ! 気分が悪い!」
 俺は乱暴に立ち上がると、アスファルトを怪獣のように歩き始めた。
「勝手に話しかけてきたくせに、勝手に気分悪くなるなよ。頭わりぃな。いい大人のくせによう」
 美女の言葉を、俺は無視した。

 翌日のこと。
 今日は昨日に比べ、だいぶ気温が高い予想をテレビは言っていた。そんなことを言ったって、みんな軟弱になっているだけなのだ。
 こういうのは気合いでなんとかなるものなのだ。
 俺は一番成績の良い部下と共に、お得意先へ車で向かっていた。見積書は今年一の金額が書かれている。
 あとはサインをもらうだけとはいえ、緊張する。
 車の中は部下が調節してくれていたおかげで涼しい。緊張が少し和らぐ。
 気が利くヤツは気が利くものだ。
 アイツとは違う。
 お得意先の社長と大口の契約をしているとき、俺の携帯電話が鳴った。すぐに着信を切る。目の前には契約書があるのだ。それにサインしてもらうまでは、電話になど出られない。
 社長がボールペンを握ったとき、再び電話が鳴った。
「電話に出たらどうですか?」
 ハゲ散らかした社長は、穏やかな表情で俺にうながす。俺は「すみません」と頭を下げ、電話に出た。
 電話の内容は「あの使えない部下が熱中症で倒れ、救急車で病院に運ばれた」というものだった。
 軟弱者めが。
 仕事をしろ、仕事を!
 俺は怒りにまかせ、電話を切る。
 社長も同行した部下も俺に驚いていた。俺は「なんでもありません」とだけ答えた。
 無事、契約書にサインをもらうことができた。今年大一番の仕事が終わった。
「課長、先ほどの電話は何だったんですか?」
 同行の部下は俺に聞く。
 俺はアイツの熱中症の話をした。
「急いで、病院に行きましょう! 彼が心配です! どこの病院ですか?」
 運転していた部下は動揺していたようで、運ばれた病院を伝えると、乱暴に運転を始めた。
 あんな使えぬアイツを気にかけるなんて。そんなことをしなかったら、もっと成績が良いだろうに。可哀想なヤツ。
 俺は不機嫌にため息をついた。
 車を駐車してくるので、病室へ行ってください、と言って、同行していた部下は、病院の正面玄関に俺を降ろした。
「まったく、どうして俺がアイツの見舞いなど……」
 吹き出る汗をハンカチで拭いながら、病院の中に入った。

 アイツが休んでいるという部屋への道はあきれかえるほど静かだった。医者や看護師ひとりもいない。
 なんか、さっきまであれだけ暑かったのに、寒気がしてきた。
 少し薄暗い。妙な静けさだ。不気味である。
 ノックし、病室の中に入ると、あの美女がアイツのベッドサイドに座っていた。
 顔をうつむかせ、アイツの顔を覗き込んでいる。もしかして死んだのか……と思ったが、そうではないらしい。
 カーテンのおかげで廊下よりも薄暗いのが、なおさら不気味さを感じる。
「ああ、上司の方ですか。大丈夫です。彼はだいぶ元気を取り戻しましたよ」
 美しい黒髪をお団子頭にまとめた美女は立ち上がった。ウルトラマリンの目は優しく笑っている。前と打って変わって、上品な口ぶりだ。まるで別人。
 ベッドを見ると、点滴を受けているアイツがいた。俺の顔を見た途端、顔が真っ青になった。
 就業時間中だというのに、寝ていることに腹が立ち、
「てめえ! 何、仕事をさぼっているんだ! さっさと仕事に戻れ!」
 俺は怒鳴り散らし、胸ぐらを掴んだ。
 部下は息を荒くしながら、こちらを睨み付けている。
 なんという生意気!
「あの、病人に対して、なんていう口ぶりなのでしょうか?」
 美女は俺とアイツを引き離す。華奢な体つきの割には、力が強く、引き離された。
「お嬢さんよ。前にも言ったが、こいつは仕事ができないんだ。だから、課長である俺が指導してやっているというのに、全く成果を出さない。こんなクズは俺の課に必要ないんだ!」
 俺は使えぬ部下を指さす。
 美女は、大きなため息をつき、
「因果応報って言葉、ご存じですか?」
 と、冷たくウルトラマリンの目で俺を見る。
 そして、指を鳴らし、
「闇の力を以て、天誅を下す! 汝の振る舞いを顕せ!」
 俺の顔に指を指した。
 一体、何が起きたんだ……?
 寒気がこみ上げてくる。エアコンとはどうも違う寒気だ。鳥肌がたつほどである。
 電話が鳴った。
 なんだ、こんな時に電話なんぞ……と思って、着信を見る。
 支店長からだ。
 俺は恐怖と戦うように元気よく出た。
「なあ。キミ、今、病院にいるでしょ。熱中症の患者になんてことを言うんだ?」
「へ……?」
 俺は呆然とする。一体、何が起きているんだ?
「今、知らない電話番号から電話がかかってきててな。出てみると、お前の怒鳴り声が聞こえてきたんだ。あれは熱中症で倒れた人間に対する言葉か? その前にもお前の課の連中から、色々、彼に対して、どうにかしてくれという相談がいくつもあったんだ。調査をしていたんだが、なかなか決定打が見つからなかった。しかし、今のを聞いて確信した。処分は覚悟しておけ」
 支店長の電話は切れた。
 一体……何が起きたんだ……? 処分……?
 もしかして、クビ?
 腰が抜けて、へたり込む。
 美女は大声で笑うと、
「ああ、いい絶望ですね! 最高!」
 俺の顔を覗き込んだ。
 大きな青い目がますます恐怖を増幅させる。
「こういう絶望、わたくし、意外と好きでしてね。悪趣味って妹は言いますけど」
 美女は邪悪に再び笑うと、
「妹と会ったことありますよね? ほら、噴水のある公園で。じゃじゃ馬娘ってバカにするような男は最低だって怒っていましたよ」
 穏やかに尋ねる。
「あの女……。お前の妹は『あたしたちは絶望を希望に変える存在』だと言っていた。それなのに、俺の絶望を笑うのか」
「ええ。そうですよ。因果応報。自業自得。ね、自分の行いをせいぜい思い返してくださいね」
 美女はそういうと、風のように、その場から消えた。
 ベッドの方を見ると、あれだけ騒いでいたのに、部下は静かな寝息を立てていた。
 風が一陣吹き、カーテンがたなびいた。蝶が一匹窓から出て行くのが見えた。

 それからの話をしよう。
 俺はパワハラで課長職を追われ、今は事務課の片隅で、ひたすら表計算で計算をしている。しかも、その計算は会社のなんの役にも立たない仕事だ。
 つまり、窓際族に追われたというわけ。
 俺は俺の課長としての仕事をしただけだというのに、会社はどうしてそれを理解してくれなかったのだろう。
 給料も下げやがったし。
 一方のアイツは、営業成績が一番になったと聞いた。課長に俺がいたせいで、なかなか伸び悩んでいたという会話が聞こえてきた。
 因果応報?
 自業自得?
 俺が損をして、アイツが得をしただけじゃないか!
 俺は支給されたボロいスペックのノートパソコンを畳む。パソコンに当たってはいけないと思いながらも、ボロいせいで計算が遅いパソコンにイライラする。
 アイスコーヒーを飲んでも、脳はすっきりしない。
 明日は有休を使おう。

 会社を休んだとはいえ、どこにも行く当てはない。
 バタバタに散らかした部屋をキレイにする元気もない。
 だが、こんだけ晴れているのだ。外に出ないのはもったいないだろう。
 俺はダサいTシャツとステテコ……いわゆる部屋着の状態で、近所の公園へ向かった。
 公園には子供やその母親が楽しげに遊んでいた。その様子を、俺は木陰にあるベンチに座りながら眺める。端から見たら不審者だ。
 俺にもこんな時代があったな、と振り返る。
 それと同時に、俺はどうしてこうなってしまったのだろう、と絶望する。
 何が悪かったのだろう。どこがいけなかったのだろう。
「お、この前のオッサン。元気ねえな」
 日傘をさし、白いワンピースを着た美女が炭酸のペットボトル片手に現れた。
「うちの姉貴、えげつねえだろ?」
 美女は日傘を畳むと、俺の隣に座る。
「今日もあっちぃな。日焼け止め塗ったけど、この汗じゃ、落ちてしまうぜ」
 美女はポシェットから扇子を取り出し、仰ぎはじめた。
「なあ、オッサン。いいか? あんたみたいな人間は若輩者の戯言と捉えても仕方がないことと思うが、よく聞いてくれ。自分の行いって、自分じゃなかなか分からねえもんなんだよ。だからこそ、今の待遇に不安を持つなら、今までのあの彼への行いをよくよく考えな」
 ポシェットに扇子をしまった美女は、俺を指さす。
「あたしは姉貴と違って、絶望しているあんたを見逃せなかった。だから、あたしはあんたに会いにきたんだよ。だが、これ以後、もう二度と、アイツにもあんたにも関わらねえ。だからこそ、最後の忠告しにきた。因果応報って悪い意味のように捉えがちだが、良いことをすれば、良いことが返ってくるということでもあるんだぜ」
 美女は日傘を開くと、
「じゃあな」
 と言った。
 瞬きすると、その乱暴な美女は消えた。

 俺は今の会社を辞めた。
 それから、貯金を叩いて、大学に入り直した。
 哲学科だ。
 世の中をもっと知らなければならぬと、あの乱暴な美女の言葉で決心した。
 様々な哲学者の本を読みながら、自分が今までしてきたことを振り返る。
 課長職として行ってきた部下への行為は、俺が使えないと勝手に決めつけたイジメだった。
 そして、思い込みの怖さを知った。
 思い込みは良い方に傾けば、良い方に進むが、悪いと思い込むと悪い方へ進む。
 俺の場合、後者だった。
 俺は自分の無自覚な悪い思い込みによる攻撃性を恥じた。
 そのことを飲み友だちに話したら、お前、変わったな、と笑ってくれた。
 それから彼女ができた。大学院で研究している学者の卵だ。
 俺の過去の過ちとその反省を認めてくれる寛大な女性だ。
 卒業したら、プロポーズしようと思う。
 そして……いつか……いつか、元部下たちに再会したら……。
 そのときは、許されなくてもいい。
 きちんと素直に「ごめんなさい」と謝ろう。