プロローグ

「なあ」
「なに?」
「本当に『黒谷鏡子』って名乗るのか?」
「ええ、そうですよ。本名……戸籍の名前じゃリスキーだと言ったのはあなたの方じゃないですか」
「そら、そうだろ。お前は性格悪いんだから。あたしとあんたは双子で同じ顔。あんたのしたことで、あたしとして悪評が実生活に及んだら、どうするつもりなんだ? 楽しい大学生活をぶち壊すつもりか?」
「性格悪いなんて、ひどい事を言わなくなっていいじゃないですか? それに、あなたも人のこと言えません。それにどうせ大変なことを起こしても、大抵、わたくしたちのことを忘れてしまうんです」
「んなこと言ったって、性格が悪いのは事実だろう? 『人の絶望を見るのが楽しい』ってこぼしたときは、さすがに妹のあたしですらひいたぞ。これこそドン引きってやつだ」
「正確には『自分で引き起こした絶望』、つまり、自業自得を見るのが好きなだけで、絶望は忌み嫌っています。絶望に苦しめられている人は救うのが、わたくしたちの役割っていうのは、分かっていますよ。それこそ、わたくしたちが生まれた使命なのですから」
「なら、良いけどさ……。ここまで悪趣味とは思わなかっただけだよ」
「悪趣味と言わなくても。とりあえず、今は黒谷鏡子と名乗るのは、暑い間にしておきますからね」
「はいはい」
「あなたにも少し手伝ってもらいますよ」
「え?」
「昔、言ったじゃないですか。一蓮托生って。それにあなたも絶望を忌み嫌っているでしょう?」
「分かったよ。やるったら。あんたがポカしたら、フォローするよ」
「ポカしなくても、手伝いなさい」
「まったく。肝心なときはあたし頼りなんだから」