小説

「冷血の鏡子さん」

「あれ。どこいったっけ」私は夫からもらったピアスを探す。さりげなく揺れるエメラルドがついた小さな小さなピアスだ。大好きな夫からもらったピアス。とっておきのとき――例えば、夫とのデートの時とか――に付けようと思っていたピアス。今日がそのデート…

パイロット版「恩知らずの闇子さん」その2

「北条さん、ごきげんよう。如何お過ごし?」 後ろから、髪の毛を美しく整え、メイクをバッチリ決めたクラスメイト、城鳥蓮華が高笑いしながら、背中を叩き、通り過ぎた。「城鳥さん……。どうも」 月曜の朝という一番嫌いで憂鬱な時間帯に、こんな高笑いを…

「銀のトビラを開くアヴァロン・セレスタイト」

「ありがとう」 こう繰り返し頭を下げる老女に、「いえ、神々にお祈りをする手伝いをするのがわたしたち神官の仕事。こちらもお役に立ててうれしかったですよ」 小礼拝堂の前で神官長の孫娘で次期神官長のゼフィは老女の手を握る。 神殿で働くぼくら神官の…

「夢のレストラン」

 私は古ぼけて暗い印象の「夢のレストラン」という看板がかかっているシケたレストランのドアを開けた。「いらっしゃいませ」 店内は薄暗い照明の真ん中に椅子が三つだけ並んでいるカウンター席しかなかった。奥にはコック帽にコックコートを着たこざっぱり…

春風にのってきたサザンクロス

 爽やかな日差しの中、あたしは風を切りながら深い森を越えようと、愛用のホバーボードで宙を駆けていた。 若干、暑く汗ばんできたので、川の上を滑るように飛ぶことにした。水しぶきが冷たい風と共に足にあたり、とても涼しい。 気分がとても良いので、思…

異端者~彼女の行方

後ろから鈍器のようなもので殴られた。目の前に星が飛ぶ。いくら残業でいつもより退社が遅かったとはいえ、油断していたのが悪かった。月明かりが明るかったのも尚更油断を促していた気がする。次にわたしは自分のバッグが引っ張られる感覚を覚えた。とっさに…

五年後のあとがき

タイムスタンプを見ると、書き終わったのが2016年2月でした。私が25歳の時の作品になります。当時は、今以上に技術がないため、拙い作品です。ですが、今と変わらぬ情熱で書き上げています。「年齢によって感性が違う」「その時々にしか書けないセンス…

エピローグ「神様がいた喫茶店」

ひびきは家のチャイムの音で目を覚ました。自身のベッドから起き上がる。再びチャイムが鳴る。ひびきは起き上がると、慌てて玄関まで走って行き、ドアを開けた。「ひびきちゃん、いくよ」扉の向こうにマスターとゆたかと聖子が手を振っていた。「いくって、ど…

第十六柱「キープサイレンス」

「ちょっと待って。それ、どういう意味……? 忘れている……? 願いって……」ひびきは青ざめた表情で古森の金の瞳を見つめる。古森はひびきから腕を放し、「いや……なんでもない」と俯く。「ちょっと! なにか話さないと分かるモノも分からないわ!」ひ…

第十五柱「存在する価値」

喫茶「がじぇっと」のひげ面のマスターはイライラしていた。時刻は夜十時を回っていたので、マスターはお店を閉めたかった。しかし、いっこうに帰らないお客が一組いた。怒っても良かったのだが、マスターは温厚で、尚且つ分別の付いている男性だったので、ま…

第十四柱「天使の鏡」

古森は、ひびきと店の奥に置くカラーボックスを買いに、郊外のショッピングモールまで出かけていた。予算も大きさもちょうどいい物があったので、それを購入し、そのほかの細々としたものを買ったあと、「ねえ、コモリ。あんた、おなかすいてない?」ひびきは…